タイを知る

タイといえば、美しい日の出、ターコイズブルーの海、ロイクラトン祭りの川や空のイルミネーションなど、光に関わる美しい現象が世界中の旅行者に知られています。しかし、最も明るい光現象は、タイ北東部のナコンラチャシマで起きていることをご存知でしょうか。タイ・シンクロトロン光研究所(SLRI)のサイアム光源加速器は、ASEAN地域の科学者や企業に放射光を提供し、興味深い新物質の特性調査を可能にしています。周囲81mの1.2GeV蓄積リングは、1996年に日本の半導体企業から成る共同事業体より、タイに寄贈されました。寄贈の金銭的価値は高いものの、これによりインフラの運営、科学者やエンジニアの教育、最新規格へのアップグレードや拡張など、タイ政府には多大な努力が求められました。

SPSの発展には、挿入光源とビームラインの増設という大きな節目がありました。SPSのような第一世代、第二世代のシンクロトロンは、超高真空管内で電子に円形の軌道を描かせることで機能します。電子が残留ガスの分子に妨げられることなく、最大12時間自由に動き回れるようにするためには、真空度を10-9 mbar以下にする必要があります。光速に近い速度で曲がるこの電子の運動により、放射光が発生します。この放射光の強度を高めるため、第3世代のシンクロトロンには、挿入光源と呼ばれる装置が搭載されています。これは磁石の直線部を利用して、電子をジグザグ状に動かすものです。これにより電子は大きなカーブを描くのではなく、急カーブを何度も描きながら移動することで、より明るい放射光を発するようになります。

「シンクロトロン光の強さを、レーシングカーのタイヤの摩耗に例えて考えてみてください。NASCARのレース場の広いカーブでは、多少の磨耗はあります。しかし、狭いスラロームコースを同じ速度で走ると、タイヤはゴムを大量に燃やして溶けてしまいます。同様に、電子がジグザグ状に動いている間は、放射光の放射量が大幅に増えるのです」とSLRIのThanapong Phimsenは説明します。電子を真空管の壁に衝突させずに、複雑な真空システムに新しいスラロームコースを導入することが、重要な課題です。

VATのカスタマイズ真空ソリューションがあらゆる要件に対応

シンクロトロンに求められる超高真空要件の達成は簡単ではありませんが、VATには超高真空アプリケーションのための幅広い製品ポートフォリオがあります。「シンクロトロン真空システムの各ポジションに合わせた、最適なバルブをご用意しています」とVATのセールスマネジャーであるKenneth Kuahは説明します。また、「例えば、電子ビームから離れた場所には、アウトガスの発生が少なくメンテナンスサイクルの長い標準的な26.4シリーズ高真空アングルバルブを設置しました。ビームに近い場所や挿入光源付近では、放射線強度がかなり高くなります。この領域では、高放射線環境で劣化する可能性のあるエラストマーシールがないため、57.1シリーズアングルバルブのような全金属製バルブのみを使用する必要があります」と話します。このため、VATは独自のシール技術であるVATRINGを開発し、これがシール性能を損なうことなく開閉を繰り返すことができる唯一の全金属製アングルバルブとなったのです。

さらに複雑なのは、リングを別々の真空セグメントに分割するセクターバルブです。メンテナンス時に1つのゾーンの排気が必要な場合でも、他のゾーンを超高真空下で維持することができます。これにより、周囲の空気による汚染を防げるほか、メンテナンス作業が容易になり、その後のポンプダウン時間を短縮できます。しかし、使用されている各セクターバルブは、電子の軌道を維持する磁場を乱し、電子ビームが散乱する原因となります。「新しい挿入光源やビームラインを導入する際など、シンクロトロンにおける電子経路の初期コンセプトを変更するのは、毎回大変です」とSupan Boonsuyaは説明します。このため、SLRIの真空技術者は、スイスのVAT技術者との緊密した連携のもと、挿入光源がリングの電気的・RF的特性をどのように変化させるかを定義しました。そして、VATのセクターバルブ47.1シリーズに顧客専用のRFブリッジを付加したものがSPSに納品され、テストに成功したのです。これまでに、合わせて10種類のVATバルブがSPSのシンクロトロン施設に導入されています。

強力なパートナーシップを確立

数年前、VAT真空バルブ技術を利用することで、最初の挿入光源がSPSに実装されました。現在、12本のビームラインが稼動しており、さらに2本のビームラインが建設中です。タイ国内では、シンクロトロン施設周辺を統括する科学団体が現れ、これにより、さらに大規模な3GeVシンクロトロン施設(SPS-II)の建設が計画されています。この熱意が、タイの研究インフラにおけるSPSの重要性を物語っています。もちろんVATは、今後もシンクロトロンビームラインや実験ステーションに最適なソリューションをお探しする、サポートパートナーであり続けます。