気候変動は、21世紀に解決すべき人類最大の問題の一つとされています。毎年、世界のリーダーたちは国連気候変動会議に出席し、この地球規模の問題に取り組んでいます。しかし、科学者たちは、限界値である1.5~2.0℃以上の気温上昇を止めるには、進展が遅すぎると警告しています。たとえ完全に持続可能なエネルギー産業であっても、何らかのプロセスで化石燃料を燃やさなければなりません。そのため、カーボンネガティブを実現する技術は、循環型経済の礎となるものなのです。ここで疑問が生じます。排出された二酸化炭素を回収する方法はあるのでしょうか?答えは「イエス」です。ただし、簡単ではありません。

この考え方が考案されたのは、1970年代にまでさかのぼります。ガスに含まれる二酸化炭素は、さまざまな材料や溶液に吸着させて、地下に貯蔵したり、さまざまな産業プロセスで使用することが可能です。その方法は一般的に2つあります。「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」と「直接空気回収(DAC)」です。CCSは、排出源である化石燃料発電所で、直に二酸化炭素の回収を目指すものです。CO2分離回収設備で排気ガス中のCO2を約90%ろ過してから、ポンプで地下約1kmの地層に送り込み、貯蔵するのが現在の主流となっています。新しい開発では、グラフェンやカーボンブラックなど、需要の高い炭素製品の製造に焦点を当て、生産工程でCO2を必要とする産業に提供したり、CO2を炭素と酸素に分解して、CO2をさらに処理することを目指しています。

それほど簡単なら、なぜ今すぐにやらないのでしょうか?フィルターにかかるコストやエネルギーロスに加え、この技術に反対する人々は、化石燃料を使う発電所を活用し続けることで、真の再生可能エネルギーの導入を遅らせることになると主張しています。

直接空気回収(DAC)は、これとは異なるアプローチをとります。DACでは、周囲の空気の二酸化炭素濃度を下げること、つまり、すでに放出された二酸化炭素を回収することを目指します。一般的な考え方は、先ほどと変わりません。周囲の空気を特殊な吸着フィルターに通し、CO2を回収・除去します。課題としては、周囲の空気の二酸化炭素含有量が、化石燃料発電所の排気ガスの約1000分の1だという点です。つまり、CCSと同じ量のCO2を回収するには、より多くの空気をフィルターに通す必要があります。また、飽和状態になった場合はシステムを停止し、フィルターの再生とCO2の除去を行わなければなりません。そこで、超大型の真空装置や周辺装置の設置が必要となるのです。

VAT、最大級サイズの真空隔離ドアを提供

VATは、昔からの伝統で、特殊な用途のためにも型破りな真空システムを提供してきました。DAC業界は、当初からVATの貴重なノウハウに注目し、信頼を寄せていました。「大型真空システムで課題となるのは、常にバルブです」と、VATのビジネス開発マネージャーであるTheresa Thangは説明します。「家の玄関のドアのようなものです。新しい大きなソファがすんなり通る大きさが欲しい一方、泥棒には入られないようにしたい。そして、お子さんでも開けられるよう、重すぎでもいけない。DACのお客様も同じような課題を抱えているのです。」隔離ドアは、通常運転時に大量の風を取り込めるよう、できるだけ大きくする必要があります。また、最小限のエネルギー消費で、簡単に開閉ができるようにする必要もあります。さらに、吸着フィルターの熱再生時には、CO2が大気中に放出されないよう、隔離ドアを閉めて、フィルターシステムを密閉します。最適な密閉を行うためには、密閉面をできるだけ小さくし、圧力差を比較的大きくする必要があり、ドアに大きな圧力負荷がかかります。

このような課題を克服するVAT独自のソリューションのひとつが、06.6大型トランスファーバルブ/ドアシリーズです。この製品はもともと、薄型の大画面テレビディスプレイを生産工程から他の工程へ搬送するための、半導体産業用スロットバルブとして設計されました。ドアを通してできる限り多くの空気量を確保したいというDAC業界からの新たな要求をうけ、VATは直径を3mから8mに拡張し、開口部の高さも拡張しました。横長の開口部の形状はそのまま採用しました。これは、完全な円形や四角形などの開口部と比べて、閉開時間、エネルギー消費量、二酸化炭素の総排出量(作動を含む)が少なくなるからです。「これを実現するために、当社のエンジニアは、これまでの経験とノウハウをすべて注ぎ込む必要がありました。この変化は機械的なものだけでなく、重量やバルブゲート全周の確実な密閉など、大きな課題を伴うものなのです」とTheresa Thangは振り返ります。「しかし、当社のエンジニアは、特殊な使用例に対する最適なソリューションを見つける、という経験が豊富です」。

技術基盤としての役割を果たすVAT

DACの技術はまだ発展途上であり、今のところ、二酸化炭素排出量を直接削減する方法の代わりにはなりません。しかし、これは未来への投資です。VATは、常に時代の先端を行く技術パートナーとともに、真空隔離と制御の課題に取り組んできました。この取り組みは、真空バルブとシステムソリューションの分野で技術リーダーとしての地位を維持する、というVATの主張には妨げとなります。「現在、私たちが開発で目指しているのは、バルブ作動のエネルギー効率を向上することです。私たちは技術を前進させたいと考えています。だから、将来的にCO2排出量を逆転させるための基礎を築く、新しくてダイナミックなDAC業界の欠かせない一員であることは、私たちの誇りなのです」と、Theresa Thangは話します。